前回は、企業で働く車イスユーザー数の推計と、車イスユーザーは企業にとっては魅力的な人材であると述べました。
今回は、もう少し詳しく、どのような変遷をたどり今にいたるのか、そしてこれからどのように変わっていくのか見ていきます。
就職・転職を考えている車イスユーザーはもちろん、支援者・企業担当者も必読です!!!



■車イスユーザーの就労事情の変遷~3つの要因

車イスユーザーの企業就労が増え始めたのは1990年代後半頃からです。
この時期の最大のエポックはパソコンとインターネットの普及です。
もともと、障害者とコンピュータ・ITの関係性は強く、一部の就労分野においても、作業所等でのコンピュータ写植や、先駆的なケースではプログラマーやSEとして就労するするケースが見られました。
そして、企業のデスクワークのデジタル化という変化は、より多くの車イスユーザーの一般企業での就労を後押しすることになります。


もう一つの要因は社会全体の意識の変化です。
90年代後半は、ちょうど「バリアフリー」という言葉を耳にするようになった頃で、象徴的な事象としては、1998年の長野オリパラで日本選手団のユニホームが、五輪選手とパラ選手で初めて同じものが採用されたことです。(今ではあたりまえのようですが、それまでは違っていたのです。まあ、バリアフリーとは意味合いが厳密には異なりますが)
そして、もう一つ象徴的といえば、大ヒットドラマ「ビューティフルライフ」です。

ビューティフルライフ~ふたりでいた日々~(1) [DVD]


常盤貴子
TBS
2000-06-23

2000年1月から放送が始まったこのドラマは、常盤貴子さん演じる車イスの図書館職員と木村拓哉さん演じる美容師とのラブストーリー。平均視聴率32.3%という驚異の高視聴率で、「バリアフリー」という言葉を社会に浸透させたといっても言い過ぎではないでしょう。車イスで働くヒロインのシーンも数多く登場し、「障害者が就労する(できる)」ということを初めて知った(意識した)という人も多かったとか。
(ヒロインの車イスはOXのVWZという今は絶版モデル。このVWシリーズはドラマ撮影と同時期に販売開始となった当時のOX最新機種で、アンダーフレームパイプを楕円にし、あえて溶接をいれて強度・剛性を上げるという創意溢れる名機でした。鮮やかなイエローカラーと、独特なフレームデザインのインパクトは強烈で、OX=スタイリッシュというイメージが確立される基となったといえます)


最後の要因は、前回触れた法定雇用率制度です。
法定雇用率は、1997年にそれまでの1.6%から1.8%へ引き上げられ、2013年には現在の2.0%となります。
これらは、「知的障害者の雇用義務化」や「精神障害者の算定特例(みなし雇用)」などと共に実施されてきました。そのため、近年の障害者雇用数の増加は「知的・精神障害者の雇用促進」が要因とされています。しかし、前回紹介したグラフを見ると、確かに知的・精神障害者の雇用数が増加していますが、身体障害者数も確実に増加しているのです。やはり、法定雇用率の引き上げは、身体障害・車イスユーザーの雇用促進にも大きく影響しています。




■今後の予想
上記をまとめると、車イスユーザーの雇用の拡大の背景には①技術の進歩、②社会意識の変化、③雇用制度の変革があったことになります。今後を予想するうえでも、この3点がどのように変わるのかがポイントとなります。


まず①の技術ですが、いうまでもなく進歩は止まりません。IoT、5G、AI、といった単語が毎日いたるところで飛び交い、それらを活用した自動運転、フィンテック、働き方改革といった言葉が話題になっています。
問題は、これらの技術が障害者の雇用、車イスユーザーの雇用にどのように影響するかです。
ICTを活用したテレワーク(在宅就労)という勤務形態は、通勤などに負担を感じる重度の車イスユーザーの就労の可能性を大きく広げました。一方でAIの進化により、多くの仕事が人の手を必要としなくなるといわれています。
技術の進歩は必ずしもプラスばかりではないということを頭の片隅に置きながら、いかに就労拡大に活用していくかがキーとなりそうです。


②社会意識の変化という点では、近年まれにみる変革期と言っていいでしょう。2020年の東京オリパラを見据えて、政府は「心のバリアフリーの推進」を重要項目としています。主だった内容は障害者スポーツの普及や障害理解といったものですが、これらの共生社会を目指した取り組みは、いずれ障害者の就労への理解・雇用促進へつながると期待できます。


そして、③の雇用制度も、今まさに大きく変わろうとしています。
来年4月1日より、改正障害者雇用促進法の「法定雇用率の算定基礎の見直し」が施行されます。
これにより、精神障害者の雇用が義務化となり、簡単に言えば法定雇用率が跳ね上がります。
これは企業側にとっては非常に大きなトピックであり、車イスユーザーの就労にも大きな影響がでてきますのでもう少し彫りさげてみましょう。

【法定雇用率の算定基礎の見直しとは】
法定雇用率はなんとなく設定しているわけではなく、当然法律で定められた算定式に基づいて決定されています。現在の2.0%という雇用率は以下の算定式からでてきたものです。
算定式
そしてこの式に数字を当てはめると以下のようになります。
法定雇用率実数
このように、きめられた2.0%という雇用率ですが、この算定が改められることが決まっています。変更後となる式が↓です。
改正算定式
大きな違いは赤線部分で、算定式に精神障害者数が加わることになります。このため、今回の変革は「精神障害者の雇用義務化」と呼ばれています。
しかし、「精神障害者の雇用義務化」と呼ばれることは誤解を招く恐れもあります。言葉だけ見ると、「企業は必ず○○%は精神障害者を雇用しなければならない」というイメージがわきますが、そうではありません。企業の障害者雇用率の計算の際、障害の種別は問われません。仮に、雇っている障害者の種別が全員知的障害であっても、雇用率を満たす人数であれば問題ありません。もちろん全員が精神障害者でも、肢体不自由の車イスユザーでもOKなのです。

【法定雇用率は何パーセントになるのか?】
では、来年の4月に何パーセントになるのでしょうか?
実はまだ決まっていません。
企業にとっては非常に気になるところで、さぞ各企業の担当者は気を揉んでいることでしょう。採用計画に大きく関わる問題です。
算定式が決まっていますので簡単に計算できそうな気もしますが、実はそう簡単ではありません。
算定式に当てはめる実数がわからない為です。5年前の2.0%を決めた際は
常用雇用労働者数は総務省統計局「労働力調査」からの推計値、
除外率相当労働者数の割合は平成23年障害者雇用状況報告から、
といった具合です。
しかし、ある程度は推測できるため、ザックリとした数字は予想されていますが、それによるとなんと、2.5~2.7%!!
殆どの企業は法定雇用率を達成できなくなり、開き直って障害者雇用を諦めてしまうのではと心配になる数字です。

そこで、さすがにこの急激な引き上げマズいということで「激変緩和措置」がとられることとなっています。
激変緩和措置とは、「平成35年(2023年)3月31日までは、現算定式(つまり2.0%)と新算定式(つまり、たぶん2.5~2.7%)の間の%に設定しましょう。(平成35年以降は、ちゃんと算定式に則ります)」という措置です。
で、「間の%」は誰が(どこで)決めるのかというと、事実上は厚労省の労働政策審議会障害者雇用分科会となります。
過去のタイミングからいくと、今月中に会議が開かれ、来年4月からの雇用率が発表されると予想しており、この記事もそれに合わせて待っていたのですが、その気配がありません。。おかしいな・・・(だいたい5月下旬に開かれるのですが→http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei.html?tid=126985
次回予定は以下から確認できます。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/shingi/kaisaiyotei.html
つまり、上記したように現時点(2017年5月21日)では来年4月から法定雇用率が何%になるかわかりませが、予想値として2.3%ぐらいとみているのが大方です。


さて、思った以上に長くなてしまったので、続きは次回としましょう。
つまらない話かもしれませんが、制度と動向をおさえることは、就職活動、採用活動を進めるうえで重要です!特に、障害者・車イスユーザーの雇用の世界であればなおさらです。
では次回の後編で!